本ドキュメントは、PNT Moni が QZSS CLAS(センチメータ級測位補強サービス)の品質を評価する際に使用する手法 v1.0.0 を定義します。 本バージョンは Product 1(CLAS Performance Evaluation)のみを対象とします。GEONET 品質モニタリング(Product 2)は別バージョン体系で公開予定です。
本ドキュメントは公開後不変です。 改訂は新しいバージョン(v1.0.1, v1.1.0, v2.0.0 等)として公開し、過去バージョンも引き続き同じ URL で参照可能とします。 バージョン番号は意味的バージョニング(SemVer)に従い、メジャー番号は方法論的に過去と比較不可能な変更、マイナーは非破壊的拡張、パッチはバグ修正・誤記訂正に対応します。
1. 評価対象とスコープ
PNT Moni v1.0.0 は、QZSS CLAS 補強情報を利用した後処理 PPP-RTK 測位 Kinematic モードの品質を評価対象とします。 評価入力は国土地理院 GEONET 連続観測局の RINEX 観測ファイル(30 秒サンプリング)と、QSS が提供する CLAS 補強情報の Web アーカイブです。 CLAS はリアルタイムには QZS-2 / QZS-3 / QZS-4 / QZS-1-R の複数衛星から並行送信されますが、Web アーカイブには各時点で 1 衛星分のみが収録されるため、本評価はその抜粋に基づきます。 詳細は § 8.5「CLAS Web アーカイブの制限」を参照してください。
評価ネットワークは GEONET 全観測局(約 1,300 局)です。 CLAS は全国を 12 のネットワーク(網)に分割しており、各観測局は CLASLIB のアルゴリズムによって取得した Compact Network ID に基づいて、いずれかのネットワークに割り当てられます。
Figure 1: CLAS の 12 ネットワーク(網)。出典: Shiono & Kubo, ION GNSS+ 2025 を改変。
さらに、ION GNSS+ 2025(Shiono & Kubo)で定義した各ネットワークのポリゴンに対する点内包判定により、網内(inside network) と 網外(outside network) に分類します。 網内/網外の議論は NAVIGATION 誌 2026 年掲載論文(Shiono & Kubo)でも継続して扱われています。 両者は別集計とし、補強情報がデータの内挿によって生成されると考えられる網内と、外挿によって生成されると考えられる網外を区別して報告します。
Figure 2: 網内/網外ポリゴン。出典: Shiono & Kubo, ION GNSS+ 2025 を改変。
評価対象の各観測局の網内/網外区分は、CLAS のグリッド定義(IS-QZSS-L6 のバージョンに依存)および GEONET の電子基準点の運用状況(観測局の設置・廃止)の組合せによって時間的に変化し得ます。 長期比較を行う際は、同一観測局の網内/網外属性が期間内で一貫していたかを確認することを推奨します。
本 v1.0.0 は CLAS 単体の評価のみを対象とします。他の補強サービス(MADOCA、HAS、B2b 等)との比較は別ドキュメント(QSS Comparison Archive、半期毎)にて扱います。
2. データ取得と品質管理
2.1 取得データ
| データソース | 形式 | 取得元 | 用途 |
|---|---|---|---|
| GEONET RINEX 観測ファイル | RINEX 3.02(30 秒) | 国土地理院 (FTP) | QC、CLAS 性能評価 |
| GEONET 放送暦 | nav / qnav / lnav 分割ファイル | 国土地理院 (FTP) | QC(teqc は MIXED 形式を受け付けないため、局別の分割暦を使用) |
| CLAS 補強情報 | L6 メッセージファイル | QSS Web アーカイブ | CLAS 性能評価(§8.5 の制限あり) |
| IGS 放送暦 | BRDC (MIXED) | CDDIS | CLAS 性能評価 |
| IGS 地球回転パラメータ(ERP) | igu00p01.erp | CDDIS | CLAS 性能評価 |
| IGS アンテナ位相中心モデル | igs20.atx + L5 派生 | IGS | CLAS 性能評価 |
| CLAS 関連補助データ | グリッド、BLQ、ISB 等 | CLASLIB バンドル | CLAS 性能評価 |
| GSI 日座標解 | R3/F3、R5/F5、R5.1/F5.1 | 国土地理院 terras.gsi.go.jp | 参照座標(§3.2 で詳述) |
放送暦の使い分けは目的に応じます。 QC では当該観測局が実際に受信した放送暦を用いて局別の可視率等を算出するため、GEONET の局別分割暦(nav/qnav/lnav)を使用します。 一方、CLAS 性能評価では CLAS そのものの品質評価が目的であり、局側の放送暦取得状況に依存しない統一基準が必要なため、IGS の BRDC (MIXED) を使用します。
アンテナ位相中心モデル (ATX) は IGS の運用タイムラインに従って切り替えて使用します。 2022 年 11 月 27 日以前のデータには igs14.atx (ITRF2014) を、それ以降は igs20.atx (ITRF2020) を使用します。
igs14.atx・igs20.atx のいずれも、一部のアンテナ(衛星・受信機の双方を含む)で L5 帯 PCV が欠落しています。本評価は CLAS を l1+l2+l5 モードで処理し L5 帯を使用するため、L5 帯 PCV が欠落しているアンテナについては、GPS は L2 帯(観測値タイプ G02)、QZSS は L2 帯(J02)の PCV を L5 帯(それぞれ G05 / J05)にコピーして補います(既に L5 帯 PCV を持つアンテナはそのまま)。この条件付きコピーは ATX の版に依らず、L5 帯 PCV を欠く全アンテナに網羅的に適用します。考え方(L5 が欠落しているとき L2 を複製する)は CLASLIB バンドル版 igs14_L5copy.atx が示すものと同一ですが、適用範囲はバンドル版より広く取ります(理由は後述)。Galileo(E5a = E05)は upstream igs20.atx に概ね収録されているため対象外です。
参考として、本評価で使用する igs20.atx(2026 年 5 月時点に取得した版)に対しては GPS 432 件・QZSS 8 件の L5 帯ブロックを補填しています(この件数は確定値ではなく、IGS によるアンテナ較正の追加・改訂に伴い igs20.atx の版ごとに変動します)。多くは既に運用を終えた旧型衛星ブロック(L5 を送信しないため評価への実害なし)ですが、GEONET が実使用する受信機アンテナのうち TRM159900.00(レドーム NONE)・TPSCR.G5(NONE)・TPSCR4(NONE)・TRM57970.00(NONE)の 4 機種も含まれます(とりわけ TRM159900.00 と TPSCR.G5 は GEONET で多用される機種です)。
この網羅適用は意図的な選択です。CLASLIB バンドル版 igs14_L5copy.atx の L5 補填は一部の機種に限られ、GEONET で多用される TRM159900.00(NONE)には L5 帯 PCV を供給しません(バンドル版が補填するのは別レドーム SCIS のみで、GEONET が使う NONE は欠落のまま)。バンドル版の補填集合に追随すると当該局群が L5 帯 PCV 無しで処理されてしまうため、PNT Moni は L5 帯を欠く全アンテナを網羅的に補填します。なお NAVIGATION 誌 2026 年掲載論文は CLASLIB 既定(バンドル版 ATX)で処理しているため、本網羅適用は同論文に対する軽微な改善的差分にあたります。コピーの件数と対象は派生 ATX のヘッダ COMMENT 行および acquisition.jsonl(§7.3)に記録され、ソース ATX の SHA-256 から再現可能です。
なお、CLASLIB バンドル版に含まれる igs14_L5copy.atx は、過去のリリースで実体が igs20.atx に置き換わっており、かつ常に最新の igs20.atx が適用されているわけではないことが確認されています。
このため PNT Moni は CLASLIB バンドル版に依存せず、CDDIS から取得した正規の igs14.atx または igs20.atx を処理対象期間に応じて選択し、上記の L5 帯コピー処理(版に依らず L5 欠落アンテナに対して)を独自に適用します。
なお、本方針では CLAS の参照座標(GSI F5 = ITRF2014)と 2022 年 11 月 27 日以降のアンテナモデル(igs20 = ITRF2020)との間に既知のフレーム不整合が残ります。 これはあえて保持する設計であり、実環境下のローバー条件を再現することを目的とします。この不整合が評価結果に与える影響については § 8.8「ATX フレーム不整合に起因する垂直バイアス」を参照してください。
2.2 品質管理(QC)
各観測局・各日について、teqc 2019Feb25 を実行し、その出力サマリをワイド形式の Parquet 1 行(1 観測局・1 日)に整形します。 teqc は 2019 年に開発元(Earthscope/UNAVCO)の保守終了が発表された閉鎖ツールであり、PNT Moni はバイナリを内部キャッシュとして保持します(後述「Caveats」§8.1)。
QC サマリ Parquet は、識別・観測局メタ列と、(指標 × 仰角ウィンドウ × 統計量) の組合せ列から構成されます。
識別・メタ列:
| カラム | 説明 |
|---|---|
id | GEONET 4 文字コード |
date | YYYY-MM-DD |
rec_type / rec_num / rec_fw_ver | 受信機種別・番号・ファームウェア |
ant_type | アンテナ種別 |
approx_pos_x / approx_pos_y / approx_pos_z | 概算位置(ECEF, m) |
visibility | 可視率(10° 以上の complete obs / possible obs、teqc サマリ定義) |
epochs_w_obs | 観測が存在したエポック数 |
source_file | 入力 teqc サマリファイル名 |
指標 × 仰角ウィンドウ × 統計量 列(命名規則 {指標}_{lo}_-_{hi}_{統計}、例 MP12_45_-_50_rms、SN1_45_-_50_mean):
| 指標 | キー | 統計量 |
|---|---|---|
| マルチパス(線形結合 RMS) | MP12 MP21 MP15 MP51 MP17 MP71 | tot / slps / rms |
| SNR(帯域別) | SN1 SN2 SN5 SN7 | tot / sig / mean |
| サイクルスリップ/電離圏(IF 残差) | ION | tot / slps / rms |
仰角ウィンドウは 5° 幅で 85 - 90 から < 0 まで 19 区分を保持します。観測局選別(§4.1)はこのうち 15° 以上の 15 区分を用い、かつ Galileo E5b 由来の MP17 / MP71 / SN7 を判定対象から除外します(§4.1 参照)。
teqc のツール名・バージョン(teqc / 2019Feb25)は固定値でレポートタグ(§7.4)に、各実行の成否・エラー内容は qc_teqc.jsonl 監査ログ(§7.3)に記録されます。
2.3 QZSS Health Bit のマスキング
IS-QZSS-PNT-006 §4.1.2.3(4) の 2024 年以降の規定により、L1C/A を放送する QZS では L1C/B health bit が常時セットされます。
teqc はこの bit を文字通り解釈して該当衛星の観測を不健全と判定するため、QC で使用する GEONET QNAV 分割ファイル(§2.1)に対し、teqc 実行前に全衛星の L1C/B health bit LSB を 0 にクリアします。
このマスキングは PNT Moni の QC 計算における QZSS 観測の有効性を維持するために必須の処理です。
2.4 データ提供者と取得パス
本評価で使用するデータはすべて、以下の組織が公開している公開データに基づきます。 PNT Moni は独自の観測・配信を行っておらず、これら組織の継続的なデータ公開に依拠しています。 トレーサビリティのため、各データソースの取得パス(年・通日 (DOY)・セッションで展開されるテンプレート)を併記します。
- 国土地理院 (GSI: Geospatial Information Authority of Japan) — terras.gsi.go.jp より FTP 経由(認証あり)で配信:
- GEONET RINEX 観測ファイル・放送暦分割ファイル (nav / qnav / lnav):
ftp://terras.gsi.go.jp/data/GRJE_3.02/{year}/{doy}/ - 日座標解 (Final):
ftp://terras.gsi.go.jp/data/coordinates_F5/GPS/(R5/F5 期)、/data/coordinates_F5.1/(F5.1 期) - 日座標解 (Rapid):
ftp://terras.gsi.go.jp/data/coordinates_R5/GPS/(R5/F5 期)、/data/coordinates_R5.1/(R5.1 期) - F3 / R3 期(2021 年 7 月以前)の取得パスは履歴遡及作業時に確定(§8.4 参照)
- GEONET RINEX 観測ファイル・放送暦分割ファイル (nav / qnav / lnav):
- 準天頂衛星システムサービス株式会社 (QSS: Quasi-Zenith Satellite System Services Inc.) — 認証なしの公開 Web アーカイブで配信:
- CLAS L6 メッセージファイル:
https://sys.qzss.go.jp/archives/l6/{year}/{year}{doy}{session}.l6
- CLAS L6 メッセージファイル:
- CDDIS (Crustal Dynamics Data Information System, NASA Earthdata) — cddis.nasa.gov より HTTPS で配信(Earthdata Login 必須):
- IGS 放送暦 BRDC (MIXED):
https://cddis.nasa.gov/archive/gnss/data/daily/{year}/{doy}/{yy}p/BRDC00IGS_R_{year}{doy}0000_01D_MN.rnx.gz - 地球回転パラメータ (ERP):
https://cddis.nasa.gov/archive/gnss/products/igu00p01.erp.Z
- IGS 放送暦 BRDC (MIXED):
- 国際 GNSS サービス (IGS: International GNSS Service) — files.igs.org より HTTP で配信(認証なし):
- アンテナ位相中心モデル:
https://files.igs.org/pub/station/general/igs14.atx、https://files.igs.org/pub/station/general/igs20.atx
- アンテナ位相中心モデル:
3. 処理エンジンと参照座標
3.1 処理エンジン
| 項目 | 値 |
|---|---|
| エンジン | pntmoni-claslib v0.8.3-pntmoni-1 |
| ベース | CLASLIB v0.8.3(内閣府/三菱電機 公開版) |
| 改修 | MOD-001(TTFF 計測のための状態リセット機能追加) |
| 測位モード | kinematic_p30_verify(30 秒キネマティック、検証モード) |
| 並列検証 | 100〜200 局サンプルで MRTKLIB 並走(2026 年以降) |
v1.0.0 期間中は pntmoni-claslib を主エンジンとします。 MRTKLIB への移行は 2027 年第 4 四半期を目標としますが、(1)1 年以上の並走データ蓄積、(2)合意統計が事前設定した閾値を満たすこと、(3)相互検証結果の公表が前提条件です。 これらが満たされない場合、移行は延期されます。
QSS の公式 Service Performance Report と数値が一致しないことは、構造的に予期される仕様です。 差異の主な要因は以下の 4 つで、QSS Comparison Archive にて詳細に分析されます。
| 要因 | PNT Moni | QSS 公式 | 影響 |
|---|---|---|---|
| サンプリングレート | 30 秒 GEONET | 1 秒公式データ | エポック数 ~3.3 倍差、パーセンタイル統計差 |
| パラメータチューニング | 30 秒向け再調整 | 1 秒ベース | Kalman プロセスノイズ、位相バイアス初期化差 |
| CLASLIB バージョン | 公開版 v0.8.3 | 運用配備版(先行) | 機能境界差、修正の取り込みタイミング差 |
| Kalman Filter の挙動 | 上記の結果 | 上記の結果 | 収束速度、残差分布の系統的差 |
3.2 参照座標と評価ストリーム
PNT Moni は CLAS 性能評価を 2 つの独立した評価ストリームとして運用します。
- CLAS Performance Evaluation (Rapid): 参照座標は GSI Rapid 系列(R3/R5/R5.1)。IGS 速報暦(Rapid products)に基づき、観測の 2 日後に毎日更新されます。速報性重視
- CLAS Performance Evaluation (Final): 参照座標は GSI Final 系列(F3/F5/F5.1)。IGS 最終暦(Final products)に基づき、観測の約 2〜3 週間後に週次(毎週月曜日または火曜日に直近 1 週間分)更新されます。確定性重視
両系統は別系統として保存・公開され、月次レポートでも区別されます。 評価対象期間に応じて、その期間に運用されている GSI 系列を使用します(PNT Moni 側の方法論は系列変更に依らず不変)。
| 期間 | Rapid 系列 | Final 系列 | フレーム |
|---|---|---|---|
| 2021 年 7 月以前 | R3 | F3 | ITRF2005 |
| 2021 年 8 月〜2026 年 3 月 | R5 | F5 | ITRF2014 |
| 2026 年 4 月以降 | R5.1 | F5.1 | ITRF2020 |
GSI 系列の移行については以下を参照: F3→F5 移行は QSS お知らせ(2021-07-14) および IS-QZSS-L6-004、F5→F5.1 移行は QSS お知らせ(2026-03-27) および IS-QZSS-L6-008。
PNT Moni では、GSI が公開する日座標解をそのまま用いるのではなく、GEONET 観測局 92110(つくば1)を基準として相対化したうえで、対象日 を中心とする ±7 日(計 15 暦日)の中央値フィルタを適用したスムージング版を参照座標とします。 これは日次座標解に時折現れるスパイク(外れ値)の影響を緩和することを目的とするものです(Shiono & Kubo, ION GNSS+ 2025)。 GSI の解析ストラテジについては、国土地理院の F5 解析戦略レポート および Earth, Planets and Space 誌掲載論文 (2023) を参照してください。
スムージング後の参照座標は、ECEF 直交座標(X, Y, Z)の各成分について、基準局 (92110・つくば1)を用いた相対化(共通モード除去)と中央値フィルタにより算出します。誤差評価(§5.1)では、得られた参照座標を各観測局の基準位置まわりで局所 ENU(E/N/U)に変換して用います。フィルタ計算式は Rapid/Final いずれの入力ストリームでも同一です。
ここで (15 暦日)、、 は基準局の跳び日(§3.2 の GSI 跳び)です。第 1 項は対象局と基準局の同一日差分を窓内で中央値化したもので、基準局の絶対座標が跳ぶ日でも差分が不変なため共通モードのドリフトを相殺します(窓全体を使用)。第 2 項は基準局自身の絶対座標を、跳び日 を除いて中央値化したものです。本方式は、基準局の絶対座標の中央値を一括で差し引く単純な相対化に対する意図的な改良であり、基準局の絶対座標が跳ぶ日にも対象局の相対座標が歪まない点が利点です。
不連続事象は以下の 2 系統に分けて扱います。
GSI 側の日座標解の跳び・再解析未予定区間 — GSI が terras.gsi.go.jp の「お知らせ」 で公表する「跳び」および「再解析を行う予定はございません」の記載をもとに、影響期間を特定して当該局・期間の参照座標を欠損扱いとします。具体的な対象は pntmoni-pipeline/configs/gsi_jumps.toml に記録され、設定ハッシュ(§7.2)を通じて再現可能です。
観測局側の物理的不連続事象 — 地震による共震性変位、アンテナ/受信機交換、その他の段差については、フィルタを跨がないよう不連続境界で分割する処理が必要です。 Phase 0 時点では、これらに対する定量的な閾値(段差判定の cm 値や処理アルゴリズム)は確立しておらず、運用知見の蓄積に応じて patch 版で定義します。 当面は GSI の地震カタログおよび観測局運用記録を参照しつつ、必要に応じて手動レビューを行います。
相対化・スムージング後の参照座標の精度は GSI 日座標解のノイズに依存します。 垂直成分は水平より系統的にノイジーである点に注意が必要です。 フレーム境界(2021 年 8 月の F3→F5、2026 年 4 月の F5→F5.1)を跨ぐ細かな比較は、フレーム変換に伴う系統差を含むため推奨しません。 Rapid/Final 間の比較も、両系統の収束特性が異なるため厳密な同一性は期待できません。
出力は (a) 参照座標 Parquet(1 行 = 対象日 × 観測局) と (b) reference_coords.jsonl 監査ログ(1 レコード = 対象日 × variant) に分かれます。
(a) Parquet の主な列: 観測局 ID(f5_id / rinex_id)・名称(j_name / e_name)、対象日(target_date)、ECEF 絶対座標(x_m / y_m / z_m)、基準局相対座標(rel_x_m / rel_y_m / rel_z_m)、フィルタ窓内で実際に使用した日数(n_days_used)と窓内日数(n_days_in_window)、フレーム(frame:ITRF2005 / ITRF2014 / ITRF2020)、variant(variant:f5 / f5_1 / r5 / r5_1 — それぞれ F5 / F5.1 / R5 / R5.1 に対応。出力パスも variant で名前空間化)。
(b) reference_coords.jsonl の主なフィールド: variant と速報フラグ(is_rapid)、手法バージョン(methodology_version = gsi-daily-median15d-1.0)、フィルタ法(filter_method = median15d-centered)、基準局 ID(fixed_station_id = 92110)と基準局メタ(フレーム・楕円体)、窓日数(window_days)、基準局の使用日数/除外日数(n_fixed_days_used / n_fixed_days_dropped)、適用した GSI 跳び日(applied_jump_dates)、入力 F5 ファイルの SHA-256(f5_sha256)、生成時刻(generated_at)。
なお現時点では R3 / F3 期(2021 年 7 月以前)の variant は未取得で、対応するトークンは履歴遡及(§8.4)の着手時に追加されます。観測局単位の不連続フラグは Parquet 列としては保持せず、不連続事象は基準局の跳び(applied_jump_dates)および §3.2 の手動レビューで扱います。
4. 観測局選別
評価集計に含める観測局は、品質指標による自動選別と、CLAS 性能評価上重要な局の強制組み入れ、運用上の手動除外、の 3 段階で決定します。
4.1 品質指標による選別
Moving Window 3 ヶ月の QC 履歴から、各(指標, 仰角条件)について片側パーセンタイル閾値を計算します。
仰角条件は指標により異なります。
- Visibility(可視率): teqc のサマリヘッダで定義される「10° 以上の complete obs / possible obs」を使用します(teqc サマリ仕様に従う固定の閾値で、仰角ビン分割は行いません)。
- その他指標(Mean SNR、Multipath、Cycle slip rate): 仰角 15°〜90° を 5° 幅で 15 ビンに分割し、各ビンで閾値を計算します(15° 未満は無視)。
| 指標 | 方向 | 閾値 |
|---|---|---|
| Visibility(可視率) | 下側 | パーセンタイル 0.27% |
| Mean SNR | 下側 | パーセンタイル 0.27% |
| Multipath | 上側 | パーセンタイル 99.73% |
| Cycle slip rate | 上側 | パーセンタイル 99.73% |
閾値判定の対象信号は GPS / QZSS の L1/L2/L5 帯および Galileo の E1/E5a 帯です。 一方、Galileo E5b 帯由来の指標(SN7、MP17、MP71 等)は他帯域と比較してノイズが大きく、Phase 0 では判定対象外とします。 十分な統計的根拠が確立した段階で v1.x.0 で再評価します。 指標定義の詳細は NAVIGATION 誌 2026 年掲載論文(Shiono & Kubo)を参照してください。
3 ヶ月窓における標本サイズは概ね 1,300 局 × 90 日 = ~117,000 サンプル/閾値セルで、パーセンタイル推定としては十分な統計量です。
各観測局・各日について、いずれかの閾値セル (各指標・仰角条件の組合せ)で閾値を悪い側に逸脱した場合、その日を NG day とカウントします。
NG 許容数は、窓内で実際にデータが得られた日数 (欠測日を除いた実ロード日数。公称 90 日窓では通常 88〜90)に比例します。
公称 90 日窓では概ね 3 日が上限となります(年間 2 週分= の許容率に対応。たとえば でも )。観測局の QC 合格判定は以下の通りです。
4.2 強制組み入れとサービス範囲外の除外
QSS の公式 Service Performance Report で評価対象とされる 72 局(CLAS-72、石垣・沖縄・小笠原など重要観測点を含む)は、QC 合格判定の結果にかかわらず評価集合に組み入れます(force_eval)。
これは公式評価との比較継続性を維持するためです。
一方、Quasi-Zenith Satellite System Performance Standard (PS-QZSS-003) に基づくサービス対象外の観測局は、強制組み入れ対象であっても評価集合から除外します(out_of_service)。これらの局は L6 信号自体は受信できますが、放送される補強情報の対象範囲には含まれません。本リストは v1.0.0 時点で以下の 4 局を含みます。
| 観測局番号 | 名称 |
|---|---|
| 0604 | 硫黄島1 |
| 0605 | 硫黄島2 |
| 1098 | 南鳥島 |
| 1140 | 沖ノ鳥島 |
これら 4 局はいずれも日本の南方海域に位置します。out_of_service は force_eval よりも優先します(防御的な優先順位)。
Figure 3: GEONET 観測局の網別分布と out_of_service 局の位置。
選別結果は Parquet ファイル 1 行 / 局として保存され、qc_pass、force_eval、out_of_service、qualified の各ブーリアンを含みます。また、選別に使用した閾値テーブル全体(各指標・仰角条件の閾値値)を qualification.jsonl に追記保存し、後日の再現性監査に対応します。
5. 性能指標
5.1 主要指標
| 指標 | 定義 | 集計単位 |
|---|---|---|
| 水平誤差(95%) | E/N 平面誤差距離の月内 95 パーセンタイル | 観測局/地域/全国 |
| 垂直誤差(95%) | U 軸誤差絶対値の月内 95 パーセンタイル | 観測局/地域/全国 |
| 水平/垂直誤差(99%) | 同上、テイルリスク評価用 | 観測局単位(標本数が十分な場合) |
| TTFF(15 分リセット) | 状態リセット後、初回 RTK Fix(品質指標 Q=4 かつ 水平精度 ≦ 0.12 m かつ 垂直精度 ≦ 0.24 m)までの時間 | ヒストグラム + パーセンタイル |
| Availability | データ取得率 | 観測局/地域/全国 |
水平・垂直誤差の定義:
月次集計は、各集計セル(観測局/網/全国 × 網内・網外 × 昼・夜 × 評価ストリーム)に属する全観測局・全日のエポック誤差をプールし、その分布からパーセンタイル(95%, 99%)・RMS・Fix 率を算出します(NAVIGATION 誌 2026 年掲載論文 Shiono & Kubo と同一のエポック単位集計)。観測局別の代表値は、集計セルが当該観測局単体である特殊ケースに相当します。網・全国指標もエポックを統計単位とする同一規則で算出し、局別代表値を改めて統計単位とする二段集計は行いません。
パーセンタイルは線形補間法(NumPy np.percentile の既定、いわゆる R-7 型)で推定します。これは観測局選別(§4.1)の片側パーセンタイル閾値がソート添字法を用いるのとは別系統であり、両者は目的に応じて使い分けます。エポック誤差のプールには単独測位(品質指標 Q=1)のエポックも含め、CLAS 補強が外れた状態も含む実利用条件下の精度を表します。Fix が得られた割合は別途 Fix 率(Q=4 の割合)として報告します。
空間分布図の色階
月次レポートの空間分布図(六角セル)は、CLAS 仕様(水平 95% ≤ 12 cm、垂直 95% ≤ 24 cm)を基準とする 3 段階の絶対閾値カラーマップで表示します:
| 区分 | 水平 95% [cm] | 垂直 95% [cm] | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 緑 | ≤ 12 | ≤ 24 | 仕様達成 |
| 黄 | 12 〜 24 | 24 〜 48 | 仕様の 2 倍以内(劣化、要観察) |
| 赤 | > 24 | > 48 | 仕様の 2 倍超(明確な劣化) |
各セル値は、当該セルに属する全観測局・全エポックを §5.1 と同一規則でプールした 95 パーセンタイルです。
5.2 TTFF
RTK Fix の判定は、CLASLIB が出力する位置品質指標 と、§5.1 で定義したエポック誤差 / が、以下の 3 条件をすべて満たすことを fix とします。
v1.0.0 では 15 分リセットを採用します。CLAS の状態を 15 分ごとにリセットし、その後最初に fix が得られるまでのエポック数から時間に換算します。
15 分リセットは NAVIGATION 誌 2026 年掲載論文(Shiono & Kubo)との連続性を維持するための選択であり、CLAS の収束特性に適したスケールです。 他の PPP 系補強サービス(MADOCA、HAS、B2b 等)で標準的な 60 分リセットは CLAS 性能評価には適さないため本手法には含めず、必要に応じて QSS Comparison Archive の別系統で扱います。
月次レポートでの表示
月次レポートの TTFF はヘッドラインテーブルと累積分布図(CDF)の 2 形態で表示します。両者とも §4 で定義した qualified 局集合のリセットウィンドウをプールして算出するため、テーブルの P50 / P95 / P99 と図の P50 / P95 / P99 は同じ値を示します。図の x 軸は秒、y 軸は累積確率で、§5.1 の水平・垂直 CDF と同じ規約です。
同じ qualified 集合に対する一貫した集計を行うことで、テーブル・図・空間分布(§5.1 の hex)が一つの「全国の qualified 集合に対する分布」というメンタルモデルで読めるようにしています。
5.3 集計次元と除外
集計は 空間・時間・評価ストリーム の 3 つの次元の組合せで行います。
空間次元:
- 観測局単位: 個別ステーションの代表値
- 網単位: §1 で定義した 12 ネットワーク(網)単位での集計。各観測局は Compact Network ID により所属網が決定する
- 網内 (inside network)
- 網外 (outside network)
- 全国単位: 全観測局を集計
- 網内全国
- 網外全国
時間次元:
- 日単位: 1 日の集計
- 昼: 00:00–09:59 UTC または 21:00–23:59 UTC
- 夜: 10:00–20:59 UTC
- 月単位: 1 ヶ月の集計(同様に昼/夜分割を行う)
評価ストリーム次元:
- CLAS Performance Evaluation (Rapid)
- CLAS Performance Evaluation (Final)
各レポートにおける具体的な集計の組合せ(どの次元の何階層を出すか)は月次レポート構造文書に定義します。
集計から除外される条件:
- §4 で
qualified=falseと判定された観測局 - GEONET 保守による計画停止(レポート § 6.1 で別途明示)
- §3 で定義した不連続日(地震・機器交換)
6. 異常検出
異常検出は CLAS の状態を継続的に把握するための補助指標で、月次レポート § 6.4 に集約されます。v1.0.0 では L6 ブロードキャストアラートのみを対象とします。
CLAS の L6 信号の CSSR Data Part に含まれる Alert flag を、pntmoni-claslib の SSR2OSR/SSR2OBS ユーティリティの -dump オプション(L6 メッセージをパースし、エポック時刻・PRN・メッセージ種別・Alert Flag 等を列に持つ CSV を出力する)により抽出します。月内発生数、時系列、衛星別内訳、および NAGU/NANU/NAQU 等の公式運用通知との相互参照を報告します。
対流圏補正量発散および電離圏補正量発散の検出は v1.0.0 の対象外で、Phase 1 以降のマイナーバージョンで追加予定です。
7. バージョニング、ハッシュ、監査証跡
7.1 意味的バージョニング
| 種別 | 形式 | 例 | トリガ |
|---|---|---|---|
| メジャー更新 | X.0.0 | 1.0.0 → 2.0.0 | エンジン交代、QC ツール交代、サンプリングレート変更、CLAS インタフェース(IS-QZSS-L6 のメッセージ仕様)の本質的変更 |
| マイナー更新 | 1.X.0 | 1.0.0 → 1.1.0 | 新規指標追加、新セクション、解釈を保つパラメータ調整 |
| パッチ更新 | 1.0.X | 1.0.0 → 1.0.1 | バグ修正、軽微な誤記、運用パラメータの調整(不連続事象処理の閾値、選別パラメータ等) |
GSI 日座標解の系列更新(F3 → F5 → F5.1)はメジャー更新のトリガとはしません。これらは GSI 側の継続的なフレーム更新であり、PNT Moni の方法論は §3.2 の通り各期間に対応する系列を自動的に選択する設計です。
過去バージョンの本文は不変であり、新バージョン公開後も同じ URL(https://pntmoni.com/methodology/v<X.Y.Z>)で参照可能です。
7.2 Config Hash
各レポート期間の処理に使用した設定一式は、以下の連結に対する SHA-256 ハッシュとして同定されます。
- 正規化 TOML 設定(
tomllibで解析し辞書順に再直列化。コメントは解析時に除去)。複数ファイルはパスの辞書順に連結 - CLASLIB 処理設定(
.conf。TOML ではないため、各ファイルの生バイト列の SHA-256 を、パスの辞書順に連結) - エンジンバージョン文字列(例:
pntmoni-claslib v0.8.3-pntmoni-1) - QC ツールバージョン文字列(例:
teqc 2019Feb25) - 参照座標手法バージョン文字列(例:
gsi-daily-median15d-1.0) - 方法論バージョン文字列(例:
1.0.0)
64 文字 16 進ハッシュは月次レポート末尾に先頭 16 文字を表示用に出力し、全長は processing.jsonl に保存されます。実装は pntmoni_pipeline.config_hash.compute_config_hash です。
7.3 監査証跡
評価結果の各数値は以下の追記型 JSONL ログから辿ることができます。
| ログ | 粒度 | 内容 |
|---|---|---|
acquisition.jsonl | アーティファクト単位 | ソース URL、SHA-256、取得時刻、リトライ履歴、派生処理(例: ATX の L5 派生)のバージョンと入力ファイル SHA-256 |
processing.jsonl | (日付, モード)単位 | エンジンバージョン、所要時間、成功/スキップ/失敗カウント |
station_config.jsonl | (局, 日, モード)単位 | 受信機、アンテナ、config_hash、補助ファイル SHA-256 |
qualification.jsonl | 選別実行単位 | 121 セル閾値テーブル全体、方法論バージョン |
reference_coords.jsonl | 対象単位 | 使用 GSI 系列(F3/F5/F5.1)、適用したジャンプ、窓内日数、ファイル SHA-256 |
qc_teqc.jsonl / qc_summary.jsonl | (日, 局)単位 | teqc 実行記録、QC 書き出し |
ttff.jsonl / ttff_stats.jsonl | 分析対象単位 | TTFF 抽出パラメータ、局別サマリ |
任意の単一値(例: 観測局 0001 の 2026 年 4 月 15 日の水平誤差)から、エンジン設定、補助ファイル、取得元 URL までを SHA-256 チェーンで辿ることが可能です。中間生成物(派生 ATX 等)も acquisition.jsonl 経由で原典までトレース可能です。
7.4 Methodology Version Tag
各月次レポート末尾には以下のメタ情報を必ず付与します。
| 項目 | 例 |
|---|---|
| Methodology version | 1.0.0 |
| Evaluation stream | rapid / final |
| Pipeline config hash | a3f9c2b1d4e7f8a9... |
| Engine | pntmoni-claslib v0.8.3-pntmoni-1 |
| QC tool | teqc 2019Feb25 |
| Reference product | R5.1 / F5.1 |
| Reporting period | April 2026 |
| Data mode | live |
8. Caveats と既知の制限
本セクションでは、v1.0.0 で公開する評価結果を解釈する際に念頭に置くべき構造的な制限と、Phase 0 時点で未確定の事項を列挙します。
8.1 teqc の保守終了
teqc は 2019 年に開発元(Earthscope/UNAVCO)が保守終了を宣言した閉鎖ツールです。 PNT Moni はバイナリ(2019Feb25)をローカルにキャッシュし、上流配布が停止しても引き続き使用可能な状態を維持します。 出力フォーマットは固定であるため、新たな入力に対する挙動変化は原則発生しませんが、新規 GNSS 信号や RINEX フォーマット変更が QC 統計に影響する可能性は残ります。
長期的には MRTKLIB 内で開発中の mrtk qc への移行を計画していますが、移行時期は同ツールの完成状況次第です(2027 年第 4 四半期を目標)。
8.2 MRTKLIB 移行の前提条件
主エンジンの MRTKLIB への移行(v2.0.0 トリガ)は、(1)1 年以上の並走データ蓄積、(2)合意統計が事前設定した閾値を満たすこと、(3)相互検証結果の公開、の 3 条件すべてが満たされた時点で実施します。 いずれかが未達の場合、移行は 2028 年以降に延期されます。
8.3 QSS 公式評価との数値差
§3.1 で述べた 4 つの構造的要因により、PNT Moni の評価結果は QSS Service Performance Report と数値的に一致しません。 これはバグではなく仕様であり、半期毎の QSS Comparison Archive にて要因別に分析されます。 長期トレンドの方向性は両者で概ね一致することが期待されますが、エンジン・パラメータ・サンプリングインターバルが異なるため、絶対値の比較や数値の同一視は意味を持ちません。
8.4 履歴遡及の段階的展開
v1.0.0 公開時点(Phase 0)の評価期間は 2025 年 4 月以降です。 それ以前の期間は段階的にバックフィルする計画で、Phase 1(2026 年 8〜12 月)で 2024 年 4 月以降、Phase 2(2027 年第 1〜3 四半期)で 2021 年 1 月以降、Phase 3(2027 年第 4 四半期〜2028 年)で 2020 年 4 月以降をカバーします。
全期間に対して単一の CLASLIB バージョン(v0.8.3-pntmoni-1)を均一に適用します。 参照座標は §3.2 の通り各期間の GSI 系列(2021/7 以前は F3、2021/8-2026/3 は F5、2026/4 以降は F5.1)を使用します。 方法論自体は v1.0.0 のまま不変で、QSS 同時期数値とは構造的に差が出ることに留意してください。
2020 年 4 月以前(IS-QZSS-L6-003 期、2018〜2019 年)の遡及は現時点では計画していません。
8.5 CLAS Web アーカイブの制限
QSS が公開する CLAS 補強情報の Web アーカイブは、CLAS をリアルタイムに送信する 4 衛星(QZS-2、QZS-3、QZS-4、QZS-1-R)のうち、各時点で 1 衛星分のデータのみが収録されています。本 v1.0.0 はこの Web アーカイブを評価入力とするため、以下の制限を伴います。
- 同時刻に他衛星が送信していたメッセージとの差分や、衛星間の系統差は本評価では捉えられない
- どの衛星のデータが Web アーカイブに収録されたかの選定基準は QSS から外部に公開されておらず、観測時点での選定衛星をユーザー側から特定することはできない
- 結果として、本評価はリアルタイムストリーム全体の性能ではなく、Web アーカイブに収録された抜粋に基づく性能評価となる
リアルタイムストリーム全体(複数衛星受信)に基づく評価は、別系統の受信フレームワークが必要であり v1.0.0 の対象外です。
8.6 完全性指標は Phase 1 以降
Protection Level(PL)等の完全性指標は v1.0.0 の対象外で、Phase 1 以降に追加します。Phase 0 月次レポートにこれらの指標は含まれません。具体的な手法は将来のマイナー版(v1.4.0 以降を予定)で定義します。
8.7 GSI 日座標解のノイズに起因する精度の限界
§3.2 で定義した参照座標は GSI 日座標解のノイズに依存します。 GSI 日座標解そのものに含まれるノイズより細かい誤差成分を本手法で分離することはできず、特に垂直成分は水平より系統的にノイジーです。 具体的な day-to-day RMS の数値は GSI の公開資料および解析戦略文書を参照してください。
8.8 ATX フレーム不整合に起因する垂直バイアス
§2.1 で述べたとおり、PNT Moni は IGS の運用タイムラインに従い、2022 年 11 月 27 日以降のデータに igs20.atx (ITRF2020) を使用します。 一方、CLAS の参照座標は GSI F5 = ITRF2014 を基準としているため、ITRF2014 ↔ ITRF2020 のフレーム不整合が処理パイプライン内に残存します。
本方針は実環境下のローバー条件を再現するためにあえて採用しているもので、CLAS を実利用するローバー側が観測時刻に対応する最新の IGS ATX を採用するのと同じ整合性条件下で評価することを目的としています。 この不整合は 2025 年に観測される垂直方向の持続的なバイアスの主要な要因として知られています。詳細な分析は Shiono & Kubo (NAVIGATION 2026) §5 を参照してください。
8.9 本ドキュメントの言語
v1.0.0 本文は日本語でのみ公開されます。 英訳は別バージョン(v1.0.1-en またはそれに準ずる)として公開予定です。 それまでの間、英語話者の読者は原文の意味を曖昧と感じる箇所について GitHub Issue または hello@pntmoni.com 宛にお問い合わせください。
References
本文中の引用先文献および公開資料を以下にまとめます。
学術論文・会議発表
- Shiono, H., & Kubo, N. (2025). Comprehensive Performance Evaluation of QZSS CLAS Over Four Years (2021–2024) Spanning the Solar Maximum. Proceedings of the 38th International Technical Meeting of the Satellite Division of the Institute of Navigation (ION GNSS+ 2025), Baltimore, Maryland, September 2025, pp. 2566–2580. https://doi.org/10.33012/2025.20341
- Shiono, H., & Kubo, N. (2026). Navigating the storm: A diagnostic analysis of QZSS CLAS performance and vulnerabilities through the solar cycle 25 maximum. NAVIGATION, 73. https://doi.org/10.33012/navi.762
- Takamatsu, N., Muramatsu, H., Abe, S., et al. (2023). New GEONET analysis strategy at GSI: daily coordinates of over 1300 GNSS CORS in Japan throughout the last quarter century. Earth, Planets and Space, 75, Article 49. https://doi.org/10.1186/s40623-023-01787-7
公開技術文書
- Cabinet Office, Government of Japan / Quasi-Zenith Satellite System Services Inc. Quasi-Zenith Satellite System Interface Specification — Centimeter Level Augmentation Service (IS-QZSS-L6-004). https://qzss.go.jp/en/technical/download/pdf/ps-is-qzss/is-qzss-l6-004.pdf
- Cabinet Office, Government of Japan / Quasi-Zenith Satellite System Services Inc. Quasi-Zenith Satellite System Interface Specification — Centimeter Level Augmentation Service (IS-QZSS-L6-008). https://qzss.go.jp/en/technical/download/pdf/ps-is-qzss/is-qzss-l6-008.pdf
- Cabinet Office, Government of Japan / Quasi-Zenith Satellite System Services Inc. Quasi-Zenith Satellite System Performance Standard (PS-QZSS-003). https://qzss.go.jp/en/technical/download/pdf/ps-is-qzss/ps-qzss-003.pdf
- Geospatial Information Authority of Japan. GEONET F5 解析戦略レポート. https://www.gsi.go.jp/common/000234817.pdf
公開告知・運用情報
- Quasi-Zenith Satellite System Services Inc. (2021-07-14). CLAS 補強情報の参照系列移行(F3 → F5)に関するお知らせ. https://qzss.go.jp/info/information/clas_210714.html
- Quasi-Zenith Satellite System Services Inc. (2026-03-27). IS-QZSS-L6 改訂および参照系列移行(F5 → F5.1)に関するお知らせ. https://qzss.go.jp/info/information/is-qzss_260327.html
- Geospatial Information Authority of Japan. terras.gsi.go.jp お知らせ(日座標解の跳び・再解析情報). https://terras.gsi.go.jp/information.php
本ドキュメントは PNT Moni Methodology v1.0.0 として 2026-06-30 に公開され、以後不変です。改訂は新しいバージョン番号で行われます。改訂履歴は frontmatter の changelog を参照してください。